旭川地方裁判所 昭和55年(ワ)292号 判決 1982年1月22日
原告
平山久義
ほか一名
被告
札樽自動車運輸株式会社
ほか一名
主文
一 原告らの被告らに対する請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一申立
一 原告ら
被告らは各自原告らに対してそれぞれ三五八万〇、八三九円宛及びこれらに対する昭和五二年八月二三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告らの負担とするとの判決並びに仮執行の宜言を求めた。
二 被告ら
主文と同旨の判決を求めた。
第二主張
一 原告らの請求原因
1 交通事故
小林幸治は昭和五二年八月二三日午前一時四〇分頃その所有にかかる大型貨物自動車(北一一さ二七八一、以下小林車という。)を運転し、北海道樺戸郡月形町緑町一五七番地の国道二七五号線上において駐車中の被告会社所有にかかる被告三橋運転の大型貨物自動車(札一一あ六四三六、以下被告車という。)に後部から衝突した。小林車の助手席に同乗していた平山まどかは即死に近い状態で死亡した。
2 被告らの責任
(一) 右事故の原因は、小林の過失の外、被告三橋の次の過失が競合したもので、両名の共同不法行為といわねばならない。
(二) 被告車は稚内―札幌・小樽間を走行する定期便であり、指定道路は国道五号線、同一二号線、同四〇号線の三路線に限定され、それ以外の路線を通行することは認められておらず、本件事故のあつた国道二七五号線は指定路線以外の道路である。そして、被告車による指定路線外の運行につき、これを合法行為と認むべき正当な理由はない。したがつて、被告三橋の指定路線外運行は、単に違法な路線外運行を構成するにとどまらず、違法運行に伴う駐車、停車等の一連の行為にまで波及し、その悉くが違法として過失責任を負担しなければならないから、被告車の駐車がたとえ駐車としては独立して合法のものであつても、違法な路線外運行の一連の行為の一環としては違法の責任を負担しなければならない。
(三) 本件事故発生地点は駐車禁止の場所であり、被告車は違法駐車をしていた。被告三橋は自動販売機からコカコーラを購入するため下車し、一〇分以上休息のため駐車していた。また、駐車にあたり尾燈のみを点燈し、駐車燈を点燈していなかつた。そして左折燈のみ点燈していたから、小林において駐車を左折と誤認したものである。更に、被告車の駐車位置は道路の中心線寄りであつて著しく不適切な駐車であり、後進車の直進を妨げる位置における駐車であつた。
(四) 被告三橋は民法七〇九条の規定により損害賠償責任がある。被告会社は被告車を自己のために運行の用に供するものであり、その運行によつてまどかの生命を害したものであるから、自賠法三条の規定により、これによつて生じた損害を賠償する義務がある。
3 相続
原告らはまどかの両親であり、同女の死亡によりその損害賠償債権を相続により二分の一宛承継した。
4 損害
(一) 慰藉料 七〇〇万円
但しまどか及び原告らの分の合計額
(二) 逸失利益 一、四七六万一、六七八円
但しまどかの分
算式 女子の一か月当り平均給与一三万六、一〇〇円
一年分は一六三万三、二〇〇円。
生活費を年収の二分の一とする。
ライプニツツ係数一八・〇七七を乗ずる。
(三) 葬儀費 四〇万円
合計二、二一六万一、六七八円
5 損害の填補
原告らは小林から損害賠償として一、五〇〇万円の支払を受けたので、残額は七一六万一、六七八円となつた。
6 よつて、原告らは被告らに対し各自三五八万〇、八三九円宛及びこれに対する昭和五二年八月二三日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告らの答弁及び抗弁
1 原告らの請求原因1のうち、被告車が駐車していたことは否認し、その余は認める。被告車は停車中であつた。
2 同2、(一)ないし(四)は争う。被告車は被告会社の稚内―札幌・小樽間の一般路線貨物自動車運送事業に従事する車両である。右運送事業免許の指定道路は国道五号線、同一二号線、同四〇号線、同二三二号線、道道豊富遠別線天塩町通、道道円山天塩停車場線である。本件事故現場である国道二七五号線が指定道路に入つていないことは原告主張のとおりである。しかし、一般路線貨物運送事業における路線とは、当該運送事業の免許申請にあたり、申請者が通常利用する予定の道路を届出させ、当該路線にかかる供給輸送力が輸送需要量に対し不均衡とならないかどうかを審査し、不均衡のおそれがなければ、その路線を免許にあたり一応指定しているにすぎない(道路運送法三条ないし六条)。したがつて、指定道路以外の道路を走行することは、他の法規に触れることがありうるのは格別、道路運送法上禁じられているものではなく、また違法運行にもならない(道路運送法二三条)。殊に、本件事故当時、被告車は被告会社岩見沢営業所に立寄る所用があり、かつ荷主から積載貨物の配達を急がれていたため、指定外道路を走行したもので、国道二七五号線を運行したことに正当な理由があつた。仮に指定路線外の運行が行政法上違法なものであつても本件事故との間には全く因果関係がない。
3 同3、4は不知。
4 抗弁
被告三橋は被告車の前照燈の点検のため道路左端に一時停車し、点検を終えたので発車するべく、後続車である小林車をやり過すためバツクミラーによつて接近する小林車を注視している最中に小林車に追突されたものである。したがつて、被告会社及び被告三橋は被告車の運行に関し注意を怠らなかつたもので、本件事故は小林の過失によつて発生したものである。また、被告車には構造上の欠陥及び機能上の障害はなかつたから、被告会社は自賠法三条但書の規定により免責されるべきである。
三 抗弁に対する原告らの答弁
抗弁事実は否認する。
第三証拠〔略〕
理由
第一 小林幸治が昭和五二年八月二三日午前一時四〇分頃その所有にかかる小林車を運転し、北海道樺戸郡月形町緑町一五七番地先の国道二七五号線上において、被告三橋運転の被告車に後部から衝突したこと、小林車の助手席に同乗していた平山まどかが即死に近い状態で死亡したことは当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第二、第三、第五号証に被告三橋の尋問の結果を総合すると、被告三橋は被告車を運転して稚内から札幌に向う途中、右月形町の市街に入つたとき、前照燈が暗くなつたような気がしたので、本件事故現場の車道左側端に停車させて点検したが、前照燈に異常がなかつたので、被告車を一まわりしてパンクしていないか確認し、運転台に乗車し、札幌の市場で積荷の冷凍魚を降す場所が異るので、伝票をもう一度たしかめ、発進しようとして後方を右側のバツクミラーで確認したところ、かなりの速度で大型トラツク(小林車)のライトが接近してくるのを発見したので、右トラツクが通り過ぎてから発進しようと考え、足でブレーキを踏んでいたところを追突されたことが認められる。右認定に反する証人小林幸治、同奥田稔の各証言、原告平山静枝の尋問の結果は前掲各証拠に照らしてたやすく措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。右事実からすれば、被告車は本件事故の際停車していたものというべく、駐車していたものではないと解される。
第二 成立に争いのない甲第四号証に弁論の全趣旨を総合すれば、被告車は被告会社の稚内―札幌・小樽間の一般路線貨物自動車運送事業の札幌―稚内の運行系統に配置されていたこと、右免許における指定道路は国道五号線、同一二号線、同四〇号線、道道豊富遠別線天塩町通、道道円山天塩停車場線、国道二三二号線であること、本件事故現場である国道二七五号線は指定道路に入つていないこと(右事実は当事者間に争いがない。)、滝川―札幌間は指定道路である国道一二号線よりも同二七五号線を走行する方が早く到着すること、被告会社は右二七五号線を単に通過するのみで、その沿線において受注、集配の営業を行う等需給を乱すような行為はしていないことが認められる。右事実からすれば、被告車が国道二七五号線を走行することが免許の趣旨に反するとはいえない。また、指定道路外の道路を走行すれば、全走行が違法行為となり、そのことのみで走行中のいかなる交通事故に対しても過失責任を負担しなければならないとはいいえない。そうだとすれば、被告車が国道二七五号線を走行していたこと自体を過失とする原告らの主張は採用しえないというべきである。
第三 前記甲第三号証、被告三橋の尋問の結果によれば、本件事故現場が駐車禁止の場所であつたことは認められるが、前記第一のとおり被告車は停車中であつたもので、駐車していたのではないから、原告の駐車禁止の場所に駐車していたから過失があるとの主張は理由がないというべきである。
第四 前記甲第五号証、証人小林幸治の証言、被告三橋の尋問の結果を総合すれば、本件事故現場の車道の幅員は一一・〇五メートルであること、被告三橋は本件事故当時尾燈、車幅燈、前照燈をつけ、左側の方向指示器をあげていたこと、被告小林は被告車が左折しようとしているとは考えず、単に進行していると誤認したことが認められる。自動車は夜間道路の幅員が五・五メートル以上の道路に停車しているときは非常点滅表示燈、駐車燈または尾燈をつけなければならない(道交法施行令一八条二項)とされていて、尾燈の外に駐車燈をもつけなければならないということはないし、小林において被告車が左折中であると誤認したこともないから、原告らの、被告車が駐車燈をつけていなかつたこと、左側の方向指示器をあげていたことが被告三橋の過失であるとの主張は採用できない。
第五 前記第一のとおり被告車は車道左側端に停車していたものであるから、原告ら主張のような著しく不適切な駐車であるとはいえない。
第六 以上によれば、本件事故につき被告三橋及び被告会社は被告車の運行に関し注意を怠らなかつたものというべきである。
第七 前記甲第二、第三号証に証人小林幸治の証言、被告三橋の尋問の結果を総合すると、小林は小林車を運転し、助手席に平山まどか、中崎修を同乗させ、毎時約五五キロメートル(制限速度四〇キロメートル)の速度で進行中、被告車を発見したが、進行中であると考え、同乗者に話しかけるなど脇見をしたこと、被告車の手前約一二メートルの地点に至り、初めて被告車が停車中であることを発見し、危険を感じハンドルを右に切つたが間に合わず、被告車に追突したものであることが認められ、他に右認定に反する証拠は存しない。そうだとすれば、本件事故は小林の過失によつて発生したものというべきである。
第八 前記甲第五号証、被告三橋の尋問の結果によると、被告車には構造上の欠陥及び機能上の障害がなかつたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
第九 以上によれば、被告三橋は無過失であるから、原告の同被告に対する民法七〇九条の規定による請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。また、被告会社は自賠法三条但書の規定により免責されるというべきであるから、原告の被告会社に対する請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないといわざるをえない。よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九三条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松原直幹)